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特集記事アーカイヴ Issue 2004.1-2

言葉の彼方に風景が見える――
ロバート・ハリス氏に聞く、ニューヨリカン・ポエッツ・カフェとミゲル・ピニェロ

Interview: 小倉聖子、佐藤美鈴

―― 『ピニェロ』の中で心に残るシーンは。

ハリス:少年時代のピニェロが、リタ・モレノ演じる母親と屋上で踊るところ。温かく優しい、彼が最も幸せだった瞬間。詩人には酒や麻薬がつきものだけど、貧民窟で育ち、幼少時のトラウマを抱えて内に影を秘めていたピニェロだから、破滅的な生き方に拍車がかかるよね。それだけにあのシーンにはぐっときます。それから、皆が集まって、ピニェロの死を悼むラストのくだり。彼らの「街」に対する愛着が上手く出ていると思いました。プエルト・リカンでもなくニューヨーカーでもない、“ニューヨリカン”の彼らにしか表現できない特別な思いが伝わってきます。

―― 特に印象的だった詩は。

ハリス:映画の中で言えば、彼がニューヨリカン・ポエッツ・カフェで最初に、煙草をくゆらせながら朗読する詩。「A Lower East Side Poem」です。酔わせますね。それから「Seekin’ the Cause」。屋上で、恋人や大勢の人を前にパフォーマンスしますよね。迫力があって圧倒的なパワーを感じました。

―― ピニェロの詩は日本でほとんど紹介されていませんが、彼のことはご存知でしたか。

ハリス:友達の詩人を通して初めて知ったんです。僕が’96年からナビゲーターを務めていたラジオ番組「ポエトリー・カフェ」にレギュラーで出ていた人です。若くして死んでしまったのですが。日本人で、ペンネームは“カオリンタウミ”。僕の弟分だったんです。出会ってすぐの頃、彼、ニューヨリカン・ポエッツ・カフェに行ってなんと優勝しちゃった。スラム・ナイトで。一緒に行った日本人も二位。上位独占ですよ。日本語と英語、両方で朗読した。二人とも素晴らしいパフォーマーだから大喝采だったようで、トロフィーももらって。

それで、カオリンタウミがニューヨリカン・ポエッツ・カフェにまつわる詩集を買って帰って、中でも「ピニェロの詩が一番好きだ」ってしきりに言ってたんですよ。だからよく憶えていますね。分厚い詩集で、ニューヨリカン・ポエッツ・カフェの創設者の詩もおさめられていた。僕も読みましたよ。ピニェロの詩は力強く情熱的。それに、独特の流れるようなリズムがありますね。スペイン語に近くて、言葉の彼方に風景が見えてくるような。

―― “ニューヨリカン・ポエッツ・カフェ”の影響力とは。

ハリス:アメリカでこれほど多くのマイノリティーの詩人、特にストリートの詩人を輩出するきっかけを作ったのはやはり、“ニューヨリカン”じゃないかな。それも本で「読ませる」のじゃなく「朗読する」「聞かせる」詩。そのルーツを作ったと思うんですよ。ラップ、つまり皆の前で競って叩きのめす詩とすごく繋がっていると思う。その機会を提供する場を初めて作ったのが、ピニェロはじめ“ニューヨリカン”の詩人たちだと思うんですよ。

僕もずっと昔、シドニーのブックショップでポエトリー・リーディングの集まりをやってて、いろんな詩人が来たんですよ。有名な人から「パブ専門」の詩人とかね。パブを回って読む人。彼ら、酔っ払いを相手に読むからパフォーマンスがすごく強いんですよ。僕の本屋でも聴衆は面白くないとビールをぶっかけたりするから(笑)、そのうち、皆にアピールするすごい詩を読める、その道専門のストリート・ポエッツが来るようになった。

開催は毎週日曜日。本屋の床にあぐらかいて座って、というスタイルが人気を呼んだ。だから、日本に帰ってきてJ-WAVEでも始めたんです。初めての試みだと思うんですよ、詩の番組を毎週やるっていうのは。で、呼んだのは、実際に道ばたでやっているストリート・ポエッツ。彼らとは今でも友達ですし、カオリンタウミもその一人でした。

『ピニェロ』にも出てきますが、ストリート・ポエッツは皆、音楽に合わせてリズムで読む。だからパフォーマンスと呼ぶにふさわしい。歌に極めて近いですよね。

―― ハリスさんのブックショップ開店は’78年ですね。いっぽう、ニューヨリカン・ポエッツ・カフェの誕生は’73年。似ている、という印象は。

ハリス:ありますね。’78年から’83年頃というのはまさに、シドニーで初めて、若者文化つまりボヘミアン文化が花開いた時代なんですよ。アメリカよりはずっと遅れてますが。僕がいたのは、シドニーでもグリニッジ・ヴィレッジ的な雰囲気のエリア。当時、若者が保守的な社会に反発して、自分たちの文化を作り始めていて、その中心的な場所のひとつが僕の店ということかな。

世界中の詩を扱っていたんです。作品を自費出版する詩人が多いんですけど、普通の出版社のカタログには載らない。だから友達のつてを通して知る。僕の友達も自分で印刷して作った詩集を持ってくるんですよ。で、それを「売ってくれないか」って頼むんで僕がOKすると「じゃ、まずサービスとして」なんて言い出して、お昼休みの混み合う店内で朗読を始めるんです。勝手に朗読したり自分から売ったりする(笑)。とにかくそんな調子で、自費出版のカタログとか詩の本の品揃えに関しては一番だった。ずっと後で、アメリカで出た詩集に当時の友達の詩が載ってるのを見かけたりして。

―― 『ピニェロ』の試写会は若い人で賑わったのですが、詩や時代についての予備知識抜きでも、ピニェロという人物を理解し自然に共感してくれました。

ハリス:若い人だからこそ、じゃないかな。自分なりの生き方やスタイルを持つ人に対してね。最近パティ・スミスのコンサートに行ったんだけど、僕はほぼ同世代。例えば彼女が感化されていた作家には僕も影響受けてたりするから、すごく親近感とか共鳴感をおぼえるミュージシャンなんだ。で、僕の世代のアーティストが来日すると、大体僕の年頃のファンが半分以上なんですよ。ローリング・ストーンズとかこの前のニ−ル・ヤングも。だけど今回驚いたのは、95%が若い人なの。 フジロックに彼女が出てて、皆そこで知ったらしい。「今晩の東京のアルバイト人口ずいぶん減ってるんだろうな」と思うほどの若者たち(笑)。しかも彼女のパフォーマンスも彼らと一丸となって、会場内にエネルギーがほとばしってる。歌詞とパンクのスピリットの、貫き通してて妥協してないところが若者の心を掴むんだね。素晴らしいことですよ。他にいないと思うんです、そんな人って。隣にいた23、4歳の子と話してたら、「すごいっす、俺の母ちゃんと同じ年なんですよ、母ちゃんがあそこに立って皆の前であんなことやってるとしたら? 信じられないっすよ!」って(笑)。それは、生き方と自分自身の中身をずっと折り曲げずに、まっすぐ主張してきた女性が得た金字塔みたいなものだな、と。自分でも改めて、「ああ、俺もこのスピリットは忘れないで妥協せずに生きていきたい」と心から思いました。

―― ピニェロの言葉「自分自身の生活の中で肌で知っていることを詩にしろ」とは、現代の詩人に向けるメッセージでもありますね。

ハリス:若い詩人にピニェロが「何でお前、知りもしない韓国のことなんか書くんだよ、自分のことを書けばいいじゃん」と説教するけど、その通りだと思うんですよね。自分の一番身近なものをテーマにして書けばいいと思う。今だって怒りや反発はたくさんあるだろうし。日本には特に、悶々とね。「詩」に固定観念を持って「美しいものを書かなければ」と頭を堅くするんじゃなくて、退屈なら「退屈」をテーマにして書けばいい。スピリットをもう少し爆発させて欲しいという気持ちはありますね。今の日本の若者は弱すぎるし大人しすぎる、保守的になりすぎる。彼らには、もっと不満を詩にぶつけて欲しいと思う。

―― 「詩」や「詩人」を映画にするのは難しいことだと思いますが。

ハリス:『ピニェロ』は、「詩」というもののリズムを見事に表現していると思いましたよ。イメージが画面上で次々に飛んでいくし物語の時系列は順不同、フラッシュバックも混ぜつつ。詩的でしかももの憂げで情熱的で…、テーマと画面がぴったり寄り添っている。本能や無意識の中で形作られる、詩作の過程のイメージそのものですね。詩に一番近い映像の形をとったんじゃないかと思いますよ。白黒になったり、カラーになったり、セピア色になったり。映像による詩ですよね。この一個の映画を一個の詩だと思って見て欲しいです。

(2003年11月28日 カフェ ラ・ボエム南青山にて)

映画『ピニェロ』

詩人・俳優・戯曲家であり、ニューヨリカン・ポエッツ・カフェの創設者のひとり、ミゲル・ピニェロ(1948-88)の生涯を描く。
2004年1月、シアター・イメージフォーラムにて正月第2弾ロードショー。配給:メディア・スーツ。


ロバート・ハリス (ラジオナビゲーター/作家)

1948年横浜生まれ。上智大学卒業後’71年日本を後にし、東南アジアを放浪。バリ島に1年間滞在後、オーストラリアに渡り延べ16年間滞在。シドニーで書店&画廊「エグザイルス・ブックショップ」を経営。詩の朗読会、演劇、コンサートなどを主催し、文化人の溜まり場となり話題に。オーストラリア国営テレビ局で日本映画の英語字幕を担当後、テレビ映画製作参加、帰国後’92年よりJ-WAVEナビゲーターに。作家としても活躍中。著作に『エグザイルス』、『エグザイルス・ギャング』、『ワイルドサイドを歩け』、『地図のない国から』、『黒くぬれ!アウトロー白書』がある。最新刊は『幻の島を求めて』。


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